Ⅱ 栽培管理の実際

        温州みかんを中心に記述したいと思います。


1 草刈り

①草は邪魔物か

 まずは、みかん畑に草が生えているのが良いのか、草がないのが良いのかを考えてみる必要があります。

 ア. 表土の流出を防ぐには草がある方が良い。

 イ. 肥料の効きを期待するなら草がない方が良い。(養分吸収の競合)

 ウ. 土壌を乾燥させたいなら草がない方が良い。(水切りは糖度を高めるのに効果があるようだ)

 エ. 土壌を湿潤にしておきたいなら草がある方が良い。(夏期の雨不足による過乾燥の防止)

 オ. 畑での管理作業のし易さからは草がない方が良い。

 カ. 病虫害の発生を防ぐ上では草がない方がよい?ある方が良い?

 

これらに対しては次のように考えています。

 

 ア. 表土の流出は絶対に避けなければなりません。

          特に傾斜地の畑がほとんどなので貴重な表土は流出させてはなりません。

 イ. みかんの木と草との養分の競合はあるようですが、草を過繁茂状態にしなければ大丈夫と思われます。

 ウ. エ. 水切りは糖度アップにつながるようですが、樹体が弱るようです。

        瀬戸内では植物にとって年間を通して一番厳しいのが盛夏の雨不足による乾燥と思われます。

                   他の作物も、この時期に散水をしなければ枯れてしまうものがあり、

                   当地で生育できるかどうかの判断はこの時期を生き延びることができるかどうかです。

                   木本の温州みかんは乾燥に強いようですが木の弱りや果実の品質の上からは

                   土の表面は草のマルチ効果を期待したいです。水分の競合も草が過繁茂にならなければ大丈夫です。

 オ. 草が生えていても刈ってやれば作業はし易くなります。

          むしろ草が生えている方が雨後の作業時に土表面がぬかるむこともありません。

 カ. 病虫害は陽当たりや風通しが悪くなれば発生するようです。

          草が過繁茂状態になったり、枝葉が茂り過ぎて重なり合ったりすると風通しが悪くなって、

          病虫害の巣となるようです。ただし天敵が住める程度の草があれば特定の病害虫が大発生することはないよ

    うです。みかんの木、草、土壌、大気で構成されるみかん畑が、うまく生態バランスをとっていれば、

          病虫害の発生はかなり抑えられると思われます。


以上のことから、草はある方が良いとして、生やしておきますが、繁りすぎないように刈ることにしています。

 


②草の刈り方

   草を刈る高さは、高刈り、低刈りと考え方は色々あるようですが、刈り易いように刈ります。

         どちらかというと低く刈る方が刈り易いし、生長は抑えられるようです。刈り倒すだけです。

         大事な有機物ですので、畑の外へ持ち出したり、焼却したりはしません。

         みかん畑の堆肥投入が奨励されますが、刈った草は堆肥投入と同じことです。

    当初の5~6年は長柄の山林鎌で刈っていました。

          その後はエンジン刈払機が中心で山林鎌は補助的に使っています。

          一番最初はエンジン刈払機でやり始めたのですが、使い方が誤っていたのか腰を痛めたので

         山林鎌でやってみると、こちらの方が効率よく出来たので続けていました。

        その後大繁茂した草を刈るのにエンジン刈払機の威力を知ってからは使い方に慣れて、また年のせいもあって

        それ以降は刈払機でやっています。

       山林鎌は刈払機に比べていかにも効率が悪そうに見えるので効率比べをしたことがあります。

       同じ面積の部分をそれぞれ山林鎌と刈払機で刈って所要時間を計ったところ、ほとんど変わりがありませんでした。

       鎌はしっかり研いでおく必要があります。

       株状になるイネ科牧草系の草でない限り山林鎌の切れ味は大したものです。刈払機の刃は2枚刃を使っています。

        研ぐのが簡単だからです。効率をあげるには1~2時間おきに刃を返したり研いだ刃と交換して

        常に切れる状態にしています。 

 

  

③草を刈る時期

 選択的除草と言って、栽培に都合の良い草を残して、悪い草は抜くという考え方や、草の繁殖力を抑えるために、草が種子をつける前に刈り取るという考え方があります。しかし良い草と悪い草の判断をつけるのはむずかしく、草が種子をつけている期間と言うのは結構長いもので草の種類を選択したり、時期を選択するのも実際の作業上は無理のようです。草が伸びれば刈るということにしています。ツル草がみかんの枝葉にからみ、背が高くなった草が枝葉へ入り込むと風通しが悪くなるのでそうなる前に刈るのが良いようです。4月から11月の間に、だいたい月1回ぐらいのペースになります。梅雨頃が最も繁ります。刈った翌日にはもう数センチも伸びています。1ヶ月は開けないで刈るのが良いようです。逆に4~5月や収穫前頃は草の伸びもゆるやかなので間を空けてもよさそうです。

 回数を減らそうとして間をあけすぎると繁茂しすぎて刈るのに時間がかかり、トータルでは余計に時間がかかってしまったことがありまし

 た。先手を打って、伸びすぎないように刈るのがむしろ作業時間を減らせるようです。



<コラム;草生栽培について>

 ナギナタガヤやクローバー等の特定の草だけを生やしてみかんを育てる方法があって、草生栽培と呼ばれています。

 2年間程放置した晩生イヨカンの畑を借りた時、林床にはたくさんのアマチャヅルが生えていました。他のツル草とちがって、イヨカン

の木に昇りつくものはほとんどなく、じゅうたんのようにキレイだったので刈らずにこのままにしておこうと、他の草だけ刈っていたら、数年間はほとんど草刈りをせずに済ますことができました。しかしイノシシが出現して、畑の土を掘り起こすようになって 土表面が撹乱されると植生の安定が崩れて,アマチャヅルはほとんど消えてしまいました。うまく続いてくれていれば草生栽培の草種にアマチャヅルを

加えることができたかもしれません。

 ただ特定の草種だけだと、生物の多様性の力や土壌微生物の多様性がはばまれるのではないかと、今のところは特定の草種を育てる考えはありません。

 草を生やしておいて伸びれば刈るという今の栽培方法は、草は勝手に生えてくるものですから、草生栽培とはよばないようです。

 

 

晩生イヨカン畑のアマチャズル 
晩生イヨカン畑のアマチャズル 

2 施肥

①有機質

 化成肥料はその酸性等が土壌中の有効なミミズなどの小動物や微生物を減少させるのは明らかなようです。

そのため肥料としては有機質のものを使用します。

安価で手に入る有機質が身近にあればそれに越したことはありません。米の生産地であれば米ヌカがあるし、養鶏場や養豚場があれば鶏糞や豚糞を使えば地域内での物質循環がはかれて良いのですが、島内では、それ程多く産出されるものがないので、最近までは隣県からの一番安価な鶏糞を購入して使用していました。完全発酵させたものなら臭いはほとんどないので民家への迷惑もほとんどないと思います。

鶏糞はみかんを酸っぱくすると言って、敬遠されます。レモンや苗木へは使われているようです。しかし自分がこれまで使用した感触からは、そのようなことはないようです。考えられるとしたら、それは未発酵の鶏糞を 栽培期間の遅い時期に撒いたからだと思われます。化成肥料のようにすぐには効きません。未発酵のものならなおさら遅く効きだします。実が熟してくる時期に土中にチッ素分が多いと糖度があがらないようで、この頃に効きだしたのではないかと思われます。ですから発酵鶏糞と言えども、夏までには散布を終えます。

 当初は施用量がわからないので慣行農法で使われる肥料のチッ素から換算して決めることにしました。チッ素過多による弊害を最も気にしていたので、慣行農法の4分の1の量から始めました。当然草刈りで生じる草の腐食は相当のチッ素を提供していると考えます。

みかんの出来や樹勢や病害虫の発生状況を観察しながら少しずつ増やしていきました。最後はチッ素量15㎏/10㌃で慣行農法の半量が妥当だと思われました。これは鶏糞の量としては10㌃に600kgとなり15㎏袋を40袋まくことになります。慣行農法の半量のチッ素分と言えどかなりの量になります。これを一時に撒くと土壌への悪影響が出ると思われるので2回に分けて撒きます。春先に6割、梅雨前に4割です。

  ようやくこれで最適と思われる施肥量が決まったと思った頃は栽培管理を始めてから7~8年も経ち、斜面地の畑への運び上げや散布に苦労を感じるようになっていました。ちょうどその頃『ハワードの有機農業』を読み返していて土壌と植物を結ぶ根圏の世界に改めて感動し、土壌微生物の働きや菌根の共生による養分の吸収メカニズムには慣行農法のチッ素換算数値でははかり切れないパワーがあると思いました。そこでせっかく確定した施肥内容を変更することにしたのです。根圏世界の活性化をはかり、労力の軽減をはかるために、動物由来の鶏糞だけでなく植物性のナタネ油粕を加えるようにしました。ナタネ油粕はチッ素成分が鶏糞よりも高いため量を減らせると考えました。資材費はアップするのですが作業労力の軽減がはかれます。

   施用量: ナタネ油粕 120㎏(6袋) + 発酵鶏糞 90kg(6袋) / 10㌃

         2月に1回 すべてを散布します。

         ナタネ油粕の量は、古老に教えてもらった数値を参考にしました。

これでチッ素換算すれば 8.6㎏/10㌃ と随分減ってしまいましたが、やはりチッ素量だけでははかれぬものがあるようで 3年目に入りますが、今のところ樹勢がおちることもなく、収量、味とも問題なく、評判の良いみかんがとれています。

 


 

②無機質

 当初、苦土石灰は肥料というよりも土壌酸度の中和力の方に重点を置いていました。石灰の多用による弊害を心配していましたし、化成肥料を使わないなら土壌が強い酸性に傾くことはないだろうと思っていました。そのため施用量を出来るだけ減らしても大丈夫だろうと一時散布を隔年にしたことがありますが、一部の木の葉が黄化してきたことがありました。

苦土(マグネシウム)や石灰(カルシウム)は、葉緑素や樹体形成に必要らしく、苦土石灰は中和力よりも肥料効果の方があるのではと、使用量を少し減らして、通年に戻したところ、葉の黄化はなくなりました。当地は花崗岩系の砂質土が中心なのでカルシウムやマグネシウムの雨水による流亡が激しいのではないかと思われます。

 飛散を避けて散布労力のかからない粒状のものを使用しています。一時できるだけ自然素材に近いものが良いだろうとカキ殻石灰を使用したことがありますが、苦土成分がほとんどないので今は使用していません。

 

 

<コラム: 無肥料栽培について>

 自然農法では不耕起 無農薬 無除草 無肥料が原則と書かれていますが、みかん作りにおいて 前の3つはできても、最後の無肥料というのが果たして可能なのかどうか興味があるところです。自然に生えている木は肥料などやらなくても充分に育っているので肥料は不要だと考えるのはどんなものでしょうか。

 農作物として毎年みかんの実を収穫する(それもたくさんの)としたら、土中の栄養分は不足してくるはずです。早生イヨカンは矮性で背が低いので耕作放棄されると草に負けて2~3年で枯れてしまいます。温州みかんやハッサクは放棄されても10数年は生きていますが、生えてきた雑木が大きくなって、ハッサクを被圧するようになると枯れます。生きている間は小さな実を少しはつけています。

 腐食分が充分あって、土壌微生物も活性化しているのなら、その間は肥料をやる必要はないと思いますが、栽培を続けるうちに栄養分は減少するでしょう。その時点で大量の腐食質を投与すれば良いと思いますが、それは無肥料とは言えません。土壌微生物の力で生産性の向上を図ろうとしても土壌微生物に対しも何らかの栄養分が必要なのでいずれにしても、その量は別にして肥料分は必要と思われます。

 無肥料栽培には大変興味はあるのですが、今のところ施肥は続けるつもりです。

 

 

3 農薬の不使用

病害虫防除のために農薬散布はやっていません。また、もちろん除草剤もやりません。除草剤は農薬から除外されるように思う人もいるようですが、そうではありません。草は生やしておいて刈ることにより効果があると考えるので除草剤は使いません。病害虫は大発生さえしなければ被害は最小で収まるようです。農薬をまくことで、その畑の生態系バランスが崩れると病害虫が出てくると思われます。数百平方メートルの小さな畑でも、その畑の中で生態系の環がしっかりとできているようで、その隣の慣行農法の畑に赤ダニが大発生しても、こちらでは何ともなかったことがありました。農薬は一度まくと、その後も続いてまかなければ良好な状態を維持できないようです。

 無農薬だと病害虫が大発生することはありませんが、何らかの病害虫は出ます。カイガラ虫やアブラムシなら手で取り除いたり、スス病なら枝ごと切り落とします。黒点病やカイヨウ病対策には、その病巣となる枯枝をこまめに切り落とします。大抵は、剪定や摘果の時に気がつけば、こうした剪定的な防除を行うことで解決しています。

 

下の写真 

七曜工房の農薬を使っていないみかん畑では、雉が卵を産み、セミの抜け殻が多く、メジロなどの野鳥が巣をかけています。

 

<コラム:有機農産物について>

 有機農産物というのは 「有機農産物の日本農林規格」として平成12年に農林水産省が制定して定義しています。有機栽培と銘打って農産品を販売するには、この規格に従って有機JASの認定をうけなければなりません。規定条件を充分にクリアーしていても、認定を受けなければ「有機栽培」という言葉は使えないのです。横文字の「オーガニック」も使えません。慣行農法ではなく、農薬を使用しない農産品を作っていてその栽培方法をどういう名称にするのか考えた時、有機という言葉あったので何気なく使っていたら勝手には使えなくなってしまっているのです。確かに儲かるならと有機栽培を偽る悪い人が居て、それを防ぐ為であるというのはわかるような気がしますが、そのことが有機栽培品をブランド化しているのが大変気になります。有機栽培は通常の品よりも値が高くても良いという考え方があります。有機農業がもっと普及して一般的な農法になって欲しいと考える人間にとっては、ブランド化は妨げになるような気がします。有機栽培は手間ひまも金もかかるから高くて当然だと言い続けていてはならず、経費を抑える努力をもっとすべきだと思います。命を縮める農薬を使わなくて済むこと程大きな利点はありません。

 当農園では、有機農産物の規定をクリアーするみかんを作ってはいますが、認定を受けてないので有機栽培みかんとは名乗ってはいません。いい言葉がないので、「農薬や化学肥料を使わずに育てたみかん」という言い方をしています。(もともとこの"有機”という言葉は、訳がわからなくて実際を示す言葉ではないなとは思っているのですが)

 こうして宅配を通して、消費者の皆さんとの信頼関係が築けている現状では、改めて有機JAS認定を取る必要はないと考えています。この小文がその証になればと思う次第です。

  

 

 

4  剪定

  有機無農薬栽培と放任栽培を同一視する人が居ますが、この2つは全く違います。みかんに限らず、放っておいて毎年収穫可能な農産物はありません。みかんの木は山野に生える自然木とは違い、家畜と同様、人間の都合の良いように改良し、人間が世話して、やっと目的がかなえられる栽培植物です。

  ですからみかんの木も植えっぱなしではなく、都合の良いように剪定して、木の姿を作ります。当初考えていたのは、1本1本の木を横広がりに大きくして、植え付け間隔も密植にならないように、陽当たり,風通しよくして伸び伸び育てようというものでした。そこで放置された成木園を借りることできた時、密植気味のところは間伐して、下枝が低すぎるものは、実に黒点病が多かったので下枝は切り落としました。また、本に書いてある通り、無駄枝(からみ枝、内向枝、徒長枝等)はすべて、キッチリ切り落とすという方法をとりました。

 が、これは大失敗でした。すべての畑へ施さなかったのがまだ幸いでした。木は横広がりに大きくならず、実つきが悪く、枯れてくるものも出てくるという惨めなものでした。今の考え方は、当初の逆になっていて、こんなところかなと思われます。

 大きな基準は ,・ 剪定しなくても良いならできるだけ切らない。

           ・ 管理作業に都合の良い樹形にする。

           

 と言うものです。詳細は次の通りです。

 

 ① 上への伸びは抑えて背を高くしない。

 ② 樹間が空きすぎると草の繁茂が盛んになるので、葉が触れ合う程度にして樹下に日陰を作る。

        むやみに間伐はしな い。

 ③ 太い枝はむやみに伐らない。特に太い下枝おとしは枯れを早めるため。

    下枝につく実の黒点予防は、枝の中へ草がさし込まぬように草刈りを行なうと良い。

 ④ 無駄枝の剪定は最小限にとどめる。みかんの木ををじっくりと眺めていると、どの枝も本に書いてある無駄枝に見え

        て く るので要注意。

 ⑤ 葉量の確保に努める。とにかく伐り過ぎない。

 ⑥ 枝の切り方(切り上げ、切り下げ等)にこだわらず、樹形を大事にする。

   理想の樹形は 平たいおわんを伏せた形。 

 ⑦ 剪定した枝葉は、刈草と同じく有機物として活用するため切り落としたままです。

    外へ持ち出したり、焼却はしません。当初は管理の邪魔にならぬようにと 数ヶ所にまとめていたのですが、腐朽を

         早 める上からもそのまま切り落としておく方が良さそうです。大きな枝だけは、剪定ばさみで小さくこなします。

 ⑧ 2月から3月に年1回だけ実施します。

 

 

 

 

 

 

5 摘果

 摘果というのは、一つ一つの実を大きくするために、実が小さい時に摘み取って数を減らすことです。温州みかんは、とてもたくさんの実をつけます。成り年の時にはウンザリする程の量をつけます。この実をすべて大きくさせようと思ってもできません。小さな実がたくさんできるだけです。生理落果と言って6月頃に木自身がいくらかの実を落とすのですが、それでもまだまだびっしりとついています。摘果は欠かせない作業になります。

 思い切った摘果ができれば結果は良いようです。当初は、残した実がすべてちゃんと育ってくれるのかどうか心配で、思い切って実を落とすことができません。その結果は摘果不十分で、たくさんの実はつけているのですが、全部小さすぎて商品にはならないというものです。表年の時は、ちぎってもちぎっても実が減りません。裏年の時は、実が少なくて心配であまりちぎれません。

 葉が実を育てることから、葉っぱ何枚につき実を一つ残すと言うのが基本で、これに変化はないようですが、どのように残すのか、いつ頃するのかというのがよく変化するようです。摘果は剪定とあわせて、難しい栽培技術だと思います。

 これまでは、一般的な均等に残す方法をとっていましたが、表年の昨年からは 枝別摘果を実施しています。実をつける枝と実をつけさせない枝をはっきりと分けて、つけさせないと決めた枝は全部実をちぎるという方法です。これは、早生みかんの隔年結果がはげしくて、毎年のとれ高の差が大きいので実施することにしました。うまく隔年結果が是正されて、毎年一定量のみかんが取れるようになれば良いのですが結果はもう少し先のようです。

 摘果の実施時期は 1回目が7~8月 2回目が9月です。

 

 

 

6 収穫

  カンキツ類は樹上完熟ということをあまり言いません。晩柑類はほとんどが摘み採ってから保存して後熟させるからかもしれません。それでも、どの果実も樹上で熟れたもの程おいしいものはありません。晩柑類も厳冬期に凍害や寒害をうけることさえなければ、樹上におくほどおいしいのです。「幻の五月八朔」と呼ばれるように、八朔も凍害にあわずに4月ごろに摘み採ったものは格別美味しく、温州みかんも樹上で年を越したものは高値で取り引きされるようです。

 食べ頃は、温州みかんは摘み立てを、晩柑類はあまり長期保存をしないで食べる方がフレッシュでおいしいです。特に温州みかんは選別機械等にかけるのに都合が良いので、予措(ヨソ)といって摘んでから少し置いておいてしなやかにさせます。流通の上からも摘んでから日にちが経ったものが市場に出ます。食べ易い感じにはなりますが、新鮮味には欠けます。イヨカン等も朱色の美しさが売りものなので青いものも温度管理で色づけしたり、保存剤や防腐剤を使って長期保存して出荷する方法もとられています。見た目はおいしそうですが、味はおちるようです。当農園の収穫発送状況は、次のとおりです。

 

  ① 温州みかん

    極早生種、早生種、普通種があって、11月末頃から極早生から順に12月末まで摘み取り次第発送しています。

    みかんの木それぞれで,熟れる順番も味も違います。

    果皮の色や実の硬さを見て、糖度計を使って、味見をしておいしくなったと思われるものから摘んで発送します。

 

   ② 晩柑類(ハルミ・イヨカン・ハッサク)

    1月15日~25日ごろに ハルミ、イヨカン、ハッサクの順に摘みとります。

    年によっては、クリスマス頃に大寒波がやってくることもあります。その頃から天気予報の気温情報をしっかりと見て、

    摘みとり時期を早めたりすることもあります。摘み取り直前に凍害を受ければ、これまでの1年の苦労は水の泡です。



写真 上 糖度を計る 温州みかんの収穫  下 ハルミとハッサクの収穫

7 選別

畑で摘んできたみかんを発送する前に商品として出荷できるかどうかを判断して選び出す作業のことです。

平キャリー(プラスチック製の平らなカゴ状容器)に移し替えて、みかんを一つずつ手にしてチェックします。

 

① 大きさ ~  一般的にはSSサイズから3Lサイズまであり、それぞれの大きさ別で販売されているようですが、

          当農園では味や食べ易さからSから2Lまでを選んで混った状態で出荷しています。

           その時に食べたい大きさがあるでしょうし、味の変化が楽しめるので、大小バラバラで充分だと

          考えています。

 

② 外観  ~  腐っていたり、鳥に突つかれて入るものはハネます。摘み採り時にも充分注意しているのですが、

          どうしても入ってしまいます。これらはうっかり箱詰めにすると、腐りが他のみかんへ移るので

          しっかりとハネます。果皮は、実が小さい時に虫や菌に侵されると実が大きくなると傷や汚れと

          して見えます。また風で枯れ枝にこすられて傷もつきます。実の中まで及ばないこれらの傷や汚れ

          は、味には全く影響ありませんが、見た目があまりに汚れていると食欲も減退するでしょうから

          ハネることにしています。黒点病も程度がまちまちなので、あまりにひどいものはハネます。

          また青くて熟れてないと思われるものもハネます。こうしてハネられるものは、全体の1割程あり

          ます。当初は2~3割もハネることがありました。こうしてハネるミカンの量は摘果の程度やその

          年の天候などによって変わります。

           「黒点は無農薬の証拠である」と言われますが、無農薬ならすべて黒点がつくとは限りません。

          つかないように管理すれば黒点のつかないミカンも作れるので、黒点を無農薬の隠れみのに

          しないようにひどいものはハネています。無農薬での栽培技術が向上すると ハネるみかんも

          減ってくるだろうと思っています。

           皮の表面にはワックス分があるので、ほこりなどの汚れは雨で流されていて摘んだ時はキレイな

          ものですが、それでも汚れたものもあるので、手にはめている軍手で拭いたり、ひどいものは

          濡れタオルで拭くとピカピカになります。時々 ヤノネカイガラムシがついている時は、摘果バサ

          ミの先でつつくとすぐ取れます。

           こうして毎年、万を超える数のミカンの顔を見て、頭を撫でて送りだしてやります。

 

③ 味   ~ おいしいであろうと思われるものを出荷します。味をみるわけにはいきません。糖度センサーで

         測定して高い糖度のものを特別価格で販売することもあるようですが、そこまで差別化をはかる    

         こともないと思います。

 

 

<コラム おいしいみかん>

 おいしいみかんを外観から判断するのはとても難しいです。おいしさの基準もまた難しいです。よく言われるのは「甘くておいしい」ですが、甘さだけがおいしさの基準ではありません。甘さの糖度を示すのに糖度という言葉が使われます。参考にはなりますが、この数値だけでは判断できません。当農園の温州みかんでは、これまで糖度は10度から13度ぐらいです。高い時は16度になることもあります。木によって実によって色々ですが、同じ木になる実では大きい実より小さい実の方が確実に1~2度は高い傾向にあります。

16度あると言っても、食べた時にはそれ程とは思わず測定してみてわかった数値です。いくつもいくつも食べてみてわかったのは、

糖度は12度を超えると、13度も16度も違いは私には、区別できなかったことです。

 みかんの味は糖度だけではなく酸度も考えに入れなければなりません。レモンはあれ程酸っぱいのですが、糖度は10度あります。

ですから、糖と酸のバランスが取れていないとおいしく感じないようです。

 もう一つ難しいのは、好みのバランス具合が人によって違うことです。糖も酸も効いた濃厚な味を好む人、糖も酸も穏やかなアッサリシタみかんを好む人。当然個人差はあるのですが、若い人は濃い味を、年とった人はあっさり味を好む傾向があるようです。厳密に言えば、その人の体調によって欲するものは変わるようです。もちろん甘い甘いチョコレートを食べた後でみかんを食べてもおいしくありませんので、お忘れなく。

 次に大事なのは、香りです。みかんの実そのものにも当然香りはあるのですが、それ以上に果皮に含まれています。ですからみかんの皮は自分でむいて食べてください。指についた香りや空中に漂う香りとともに実を味わってください。くれぐれも人に向いてもらってて食べることはないように。

 最後に おいしさの要素として忘れてはならないのは新鮮さです。ギリギリまで樹上で熟させたものを摘んですぐ食べるのが、最もおいしいのです。摘んで日にちが経つ程、皮も水分が蒸発して柔らかくなり酸味が抜け、その分甘みを感じる用になりますが、それはボケた味なのです。際立つくっきりとした味はやはり摘みたてには、かないません。