Ⅰ はじめに

 ・農法

 

 農薬や化学肥料に疑問を持ち始めると、有機栽培や自然農法と言ったものに興味が沸き、関連する本をたくさん読んで、自分が農業を始める時には、絶対に農薬や化学肥料を使わないゾと決めていました。さてみかん作りを始めようとしたら、農薬・化学肥料中心の慣行農法以外のマニュアルはありませんので、試行錯誤するしかありません。これが、結構楽しいのですが、試行錯誤が何年も続くと、自信のあった筈の自分の植物や農業の知識がいかに生半可なものであったかと思い知ることになります。また知識だけでは農業はやれないこともこの11年で良くわかりました。観察と実践という経験がいかに大事であることか。

 

 農業指導員や書物からは色々な知識や方法を入手できるのですが、どれを選ぶのかは当の本人が決めなければならないのです。

作物の土地のことや気候のことを知っているのは本人なのです。ですから農法はその土地によって、それぞれ変化するものであって一律ではないのです。

 

 

 

・みかん栽培管理

 

 みかんを栽培管理する方法はたくさんあります。最終的には、土地柄のちがいや個人の考え方の違いから、栽培する人の数だけあると言えるかもしれません。ただ大きく分類するなら、作ったみかんを自分が消費するだけなのか、それとも現金を得るために販売するのかでちがうようです。また販売するのでもその販売形式によってちがうと思われます。一括しておろすなら農協や大型店や共同販売組織などがあるでしょうし、少量ずつなら道の駅等の直売所があり、個人への直接販売(宅配)もあります。

 なぜ販売形式によって、栽培の方法が変わるのかと言えば、購入者(販売者や個人)の求めるみかんの品質などに違いがあるからです。その品質とは、食べておいしいというのは共通で一番ですが、それ以外に外観が美しい、粒ぞろいである、保存性がある、安全である等々です。この理想のみかんを作るには、次のようになります。

 

   ア. おいしい    ~   気候や土壌や栽培方法のすべてが複雑にからみ合って、生じてくる結果を好みの違う

                     個人が食べて判断するのですから、これは最も難しい課題です。 

   

   イ. 外観が美しい ~   食品であり、嗜好品であることから見た目が美しくなければ食欲もそそられないので、

                     色鮮やかで、傷や汚れのないツルツルピカピカが好まれます。      

                    <その方法> ・殺虫剤・殺菌剤等の農薬の使用。洗浄・ワックスがけ        

                              ・栽培時の陽当たりや風通し確保の環境整備

 

   ウ. 粒ぞろい    ~   同じ大きさのものが並ぶとやはりこれも見た目が美しい。

                     小さいのは貧弱で嫌われます。大きいのは立派で好まれます。

                      <その方法> 摘果や選別作業でそろえます。

 

   エ. 保存性がある ~   みかんやりんごはダンボール箱入りを購入して毎日少しずつ食べるという習慣が定着

                                                 している家族もあって、長く置いても腐らない保存性があるものが好まれます。

                     <その方法>・鮮度保持剤(防腐剤)の使用

                              ・摘みたてで新鮮なみかんを宅配

 

   オ. 安全性がある ~       農薬禍は命にかかわる大きな問題であり、食品の安全安心については現在最も

                                                   注目されています。

                     <その方法> ・農薬使用基準の遵守。低農薬減農薬栽培、

                               ・有機無農薬栽培

 

  これら条件を同時にすべて満足する理想のみかんを作るのは、大変に難しいことです。

    それでも色々な技術を駆使して、理想のみかんを作ろうとしている現状で、どの項目を選び、

     どの項目を我慢してもらうかによって、栽培管理の方法が違ってくるのです。

          

・価格

 

 みかんの価格については 生産者が大手に一括で引き取ってもらう場合には、たいていは言いなりの値で売ることになるでしょうが、

個人レベルの消費者へ売る場合は、生産者が設定することができます。かと言ってその設定には大変頭を悩ませます。(生産経費から算出すればすぐに出そうなものですが、人件費をどう見るかで難しく現在も試算中です。) まわりを見回して参考になる値を探すのですが、ピンからキリまであって、自分の作るみかん(農薬化学肥料不使用)が どの当たりに位置するのかを決める必要があります。

 

 慣行農法で作っているのなら、現在ある規格や品質に従って値を付ければ良いのですが,慣行農法ではない農薬を使わない農法では現在の基準に従うとしたら相当不利になります。味が良くて安全性が十分であっても、外観が良くなく、粒が揃わないものは、不利になるからです。しかし現在ある規格寸法や外観の美しさはそれ程気にせず、味や安全性を、優先重視したいと思う消費者が居られれば、慣行農法で作られたみかんの単価と同じであっても充分に購入してもらえるものと思われます。

 

 ただし、農薬を使用しない栽培を希少性を重視したブランドととらまえての高価格設定は妥当とは思われません。というのは,栽培にかかる経費に差がないなら特別に高い値をつけることはできないと思うからです。厳密に比較すればわかると思います。農薬を使用する作業というのは、生産者にとっては命がけであり、その作業内容も過酷なものであり、作業量も大変なものがあります。それからすれば、無農薬での栽培というのは、除草を除草剤ではなく、手や機械でやったり、化学肥料ではなく有機質肥料を使用する以外は慣行農法で行う作業と変わりありません。だた、生産性がおちるのは確かなようですが、農薬散布作業やその危険性を回避できるという利点は、これらの不利な点と相殺できます。そういったことから、当農園では、市販のみかんの平均的価格を採用しているのが現状です。

 

 今後無農薬での栽培技術が充分に進歩し、合わせて消費者の求めるみかんが変化して 無農薬栽培のみかんの消費が伸びるなら、無農薬栽培品が高価格ブランドではなくなって、価格を下げることは充分に可能と思われます。

 

 11月下旬の温州みかん畑の様子
 11月下旬の温州みかん畑の様子